抄録
【目的】我々は、カニクイザルの排卵日をレボノルゲストレル(LNG)混餌投与によって同期化し、妊娠日の同期化を検討している。これまで、月経周期(卵胞期、排卵期、黄体期)のいずれの時期にある個体においても、14日間のLNG投与後、一定期間内に排卵することをエストラジオールとプロゲステロン測定により推察していたが、妊娠日の同期化には、排卵日を正確に特定する必要があった。また、LNG投与による卵胞発育や排卵、黄体形成等の卵巣活動への影響についても明らかではなかった。腹腔鏡を用いた卵巣の直接観察により、排卵日を正確に特定し、卵巣の活動を経時的に捉えることが可能になった。そこで、腹腔鏡を用いて卵巣を直接観察し、LNG投与後の排卵日の特定と卵巣への影響について調べた。
【方法】25~35日の月経周期が連続して3回以上みられた44匹の雌カニクイザルに、LNG(50 µg/day)を14日間混餌投与した。投与後、消退出血を確認した日を月経0日目、次の月経までの期間を月経周期とした。事前の月経周期より予測した排卵日の4日前から2日毎に腹腔鏡を用いて卵巣を観察し、排卵を確認した日を排卵日(月経0日目からの日数)とした。また、排卵日より次の月経までの期間を黄体期間とし、これらの期間について調べた。
【結果および考察】消退出血は、LNGの最終投与日から3.7±1.2日目で確認され、月経開始の同期化が示された。月経周期、排卵日および黄体期間の平均値はそれぞれ、30.3±3.2日、14.3±3.6日、16.2±2.0日であり、個体毎の月経周期は投与前とほぼ同じサイクルを維持していた。さらに、卵胞発育、排卵、黄体形成等の正常な卵巣活動が観察できたことから、LNG投与による卵巣への影響はないと推察した。腹腔鏡観察により、排卵日が特定されるようになったことから、人工授精や胚移植等による妊娠日の同期化が可能になると考えられた。