抄録
【目的】カロリー制限は多くの生物において寿命を延長させることが知られている。しかし、胎児期低栄養環境による出生時低体重は後に生活習慣病のリスクを高めることが知られており、動物実験においても妊娠動物への給餌制限により児のインスリン抵抗性、高血圧、肥満の誘発等に加え、寿命の短縮が報告されている。このように成人の疾患が発達期の環境にあることは近年、DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)研究として論じられるようになった。我々は、カロリー制限の成人および胎児に対する効果が全く逆であることに注目し、DOHaD説の責任遺伝子の網羅的検索を目的に本実験を行った。【方法】妊娠マウスを妊娠17日より絶食し、翌日に帝王切開を行い母動物および胎児から肝臓を採取した。DNAマイクロアレイの解析により母動物および胎児で発現が逆方向に変化する遺伝子を検索した。【結果】絶食により母動物では約6000個、胎児では約3000個の遺伝子の発現に変化が認められたが、母動物および胎児間で発現の変化が逆の遺伝子を211個見出すことができた。これらの遺伝子には、最近、糖代謝への関与が報告されているNeuregulin 1や長寿遺伝子Sirt1の活性化に関与すると思われるNADH dehydrogenase、ヒストンのメチル化に関与するDot1等が含まれていた。【考察】本実験からDOHaD説の責任候補遺伝子を見出すことに成功した。さらにこれらの中でエピジェネティックな調節を受ける遺伝子の検索を進めている。低体重出生児の出生率の高い日本(OECD加盟国中第2位)において、低体重出生につながる胎児期の栄養をはじめとした環境の検索は生活習慣病の予防を目的とする研究として重要であり、また、胎児期の環境により影響を受ける遺伝子を明らかにするとともに、これを元に戻す方法の検討が必要である。現在、プロテオーム解析を実施しており、その結果も合わせて報告する予定である。