抄録
【目的】ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mitochondrial permeability transition pore : MPTP)はカルシウムや酸化ストレスなど種々の要因によって開口し、内膜(IMM)の透過性を亢進し、ミトコンドリアを経由する細胞死の引き金となる重要なステップである。最近、著者らは第2相の薬物代謝酵素であるグルタチオントランスフェラーゼ(GST)、特にミトコンドリア膜結合性のGST(mtMGST1)が酸化ストレス性のMPTPに関与していることを見出した。そこで本研究では酸化ストレス性のMPTPにmtMGST1がどのように関与しているかについて強力な酸化剤であるperoxynitrite (PON)を用いて検討した。【方法】雄性SDラットを一晩絶食後断頭し、肝臓を摘出後、常法にて肝ミトコンドリア画分(mit)を分離した。このmitにPONを作用させ、GST活性及びMPT現象であるミトコンドリアの膨化(Swelling:SW)に及ぼす影響について検討し、ミトコンドリア蛋白の変化をImmunoblotting(WB)で解析した。【結果・考察】mitにPONを作用させるとSWを引き起こし、このSWはGST及びMPT阻害剤やジスルフィド結合還元剤のdithiothreitol(DTT)によって抑制された。この反応液を遠心し、得られた沈殿をMGST1抗体を用いてWB解析すると高分子タンパク(HMP)の生成がみられ、このHMP生成はGST及びMPT阻害剤やDTTによるSWの抑制に伴って減少した。このことからHMPがMPTPであることが示唆された。さらにHMPはMPT regulatorであるAdenine nucleotide translocator(ANT)、Cyclophilin D(CypD)の抗体にも反応した。そこでこのHMPを電気泳動後、ゲルから抽出し、還元条件で電気泳動/WBを行ったところmtMGST1、ANT、CypDを含んでいることが判明した。またPONを作用させたmitoplastをIMMとマトリックスに分け、WBを行うとHMPはIMMにのみ検出された。以上のことから内膜のmtMGST1はANT、CypDとジスルフィド結合を介したMPTPの形成をしていることが示唆された。一方、ミトコンドリア外膜のGST活性はPONによって増加し、スルフェン酸還元剤によって減少し、ミトコンドリアGSTの活性化に関与していることが示唆された。