抄録
薬物動態を支配する要因としての薬物トランスポーターの重要性について、遺伝子多型や薬物間相互作用に関する臨床事例の増加に伴い、最近では、International Transporter Consortiumにより、”FDA Transporter Whitepaper”の位置づけの総説が発表されるなど、注目が高まっている。トランスポーターの機能変動が毒性発現に与える影響は以下の3つに大別できる。_丸1_肝臓・腎臓などクリアランス臓器に発現するトランスポーターの機能低下は、薬物のクリアランス低下を引き起こし、血中暴露の上昇と共に副作用標的の暴露も上昇し毒性発現に至る。_丸2_血液脳関門など重要な組織と血液とを隔てる関門に発現する排出トランスポーターの機能低下は、循環血中の濃度推移には影響を与えないが、局所の薬物の暴露のみが上昇し毒性発現に至る。_丸3_内因性物質を輸送するトランスポーターを強力に阻害する薬物により、内因性物質の挙動が変動し毒性発現に至る。従って、これらを回避するためには、薬物の体内動態に影響するトランスポーターを早期に把握し、定量的なリスク評価をする必要性がある。我々はこれまでトランスポーターの体内動態・分布における役割を定量的に評価するための方法論を構築してきた。例えば、トランスポーターが関与する薬物間相互作用の臨床事例を収集し、統一の方法論でin vitro実験の結果をもとに相互作用の程度を定量的に評価したところ、比較的良好に予測できることが分かった。さらに、生理学的薬物速度論モデルによる阻害剤の濃度変化も考慮したより精度の高い基質薬物の血中・臓器中濃度推移の予測も行っている。また、ヒトにおける臓器中濃度を得る手段としてプローブ基質薬物を用いたPETによる画像解析も有用である。本講演ではトランスポーターの生体内における役割の定量的予測に関する我々の取り組みを中心に概説したい。