日本皮膚科学会雑誌
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皮膚悪性腫瘍の局所浸潤機構,特に腫瘍細胞の産生する線維芽細胞プロテアーゼ賦活化因子について
栗田 依幸
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1988 年 98 巻 4 号 p. 461-

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抄録

皮膚悪性腫瘍の局所浸潤・増殖機構を,各種protease活性を中心に,腫瘍細胞とその周辺組織構成細胞との相関関係の下に検討した.①腫瘍細胞として,ヒト悪性黒色腫細胞(G-361)とヒト線維肉芽腫細胞(HT-1080)を用い,各々の培養上清(conditioned medium:C.M.)存在下にヒト正常皮膚から得た線維芽細胞(normal human cutaneous fibroblast:NHCF)を培養後,NHCF細胞内のprotease活性(産生)系に及ぼす影響を検討した.その結果,G-361のC.M.を加え培養した系では,C.M.無添加系と比べ,cathepsin B,hemoglobin(Hb)-hydrolase,acid phosphatase,plasminogen activator(PA),typeⅠ collagenaseのいずれもその活性に差は認められなかった.一方,HT-1080のC.M.存在下に培養したNHCFでは,add phosphatase,PA,typeⅠ collagenase活性には有意差を認めなかったが,cathepsin BとHb-hydrolaseの活性は添加したHT-1080のC.M.の濃度に依存して上昇を示した.一方,HT-1080のC.M.はNHCFの増殖には影響を与えなかった.以上より,HT-1080のC.M.中にはNHCFに選択的に働き,そのcathepsin B,Hb-hydrolase活性(産生)系を選択的に上昇させる因子の存在が示唆された.②この活性(産生)系上昇因子は,加熱,トリプシン処理には安定であったが,透析により活性が消失した.従って,この因子はその活性発現に立体構造を必要としない低分子物質であることか示唆された.従来,各種悪性腫瘍細胞はその浸潤・増殖・転移を容易ならしめるために,その周辺構成マトリクスを分解するprotease系の産生・放出を自ら高めていることは明らかにされていたが,本論文の結果は,それのみならず,少なくとも線維肉腫細胞は同系のNHCFに働き,そのprotease活性(産生)系を賦活せしめるような低分子物質を産生・放出していることが示唆された.

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© 1988 日本皮膚科学会
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