抄録
メタボロミクスは細胞内の代謝産物を網羅的に探索し、代謝経路や代謝調節機構、遺伝子やタンパク質と代謝物の相互作用などを解き明かそうとする方法論である。メタボロ-ム解析は、医薬、発酵、環境、エネルギー、農作物、食品などの産業分野でも革新的な解決策を与えることが期待される。
我々は、代謝物のほとんどが電荷を持っていることに着目し、イオン性化合物に対して、高分離能を有するキャピラリー電気泳動に質量分析計を接続したCE-MSによるメタボローム解析法を開発し、数千種類の代謝物の測定を可能にした[1-2]。
本法により、解熱鎮痛薬アセトアミノフェンをマウスに投与して惹起された急性肝炎時にグルタチオンの枯渇に伴い、肝臓および血中で急増する肝毒性オマーカー(オフタルミン酸)を発見し、その生合成経路を解明した[2]。さらに薬剤性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん、非アルコール性肝炎など各種の肝臓疾患患者の血液測定によって、ヒトで特異的に上昇する新規の肝臓疾患スクリーニングマーカーを発見した。
がん研究では、がん患者から採取した正常とがん組織のメタボローム測定によって、ヒトのがん組織でも解糖系が亢進している(Warburg効果)ことを示した[3]。また大腸がん組織では、嫌気条件下で微生物や回虫が示す特殊な代謝を使ってATPを生成することを示す結果を得た。さらに唾液のメタボローム測定によって、膵臓がん、乳がんなどを迅速にスクリーニングする方法も開発した[4]。詳細を報告する。
参考文献
[1] Soga T, et al., J. Proteome Res. 2. 488, 2003.
[2] Soga T, et al., J. Biol. Chem. 281, 16768 2006.
[3] Hirayama A, et al. Cancer Res. 69, 4918, 2009.
[4] Sugimoto M, et al. Metabolomics. 6, 78, 2010.