抄録
違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)として、カチノン誘導体である3,4-methylenedioxypyrovalerone (MDPV)が流通している。MDPVの有害作用に関する研究は進んでおらず、乱用により健康被害の発生が懸念される。本研究では、MDPVの行動薬理学特性並びに細胞毒性発現に関する検討を行った。
【方 法】行動解析実験には、ICR系雄性マウス(20 - 25g)を使用した。1)MDPVの精神依存性:薬物の精神依存性は、conditioned place preference(CPP)法により評価した。MDPV投与による条件付け(1日1回6日間、3:溶媒、3:薬物)を行ない、条件付け終了24時間後に、CPP試験を行った。また、ドパミン受容体拮抗薬SCH23390前処置の影響も検討した。2)細胞毒性の評価:マウス線条体の初代培養神経細胞を使用して、MDPV添加24時間後に、死細胞由来プロテアーゼ遊離を測定し、細胞毒性の指標とした。
【結 果】1)MDPVの精神依存性:MDPVの条件付けにより、有意なCPPの発現すなわち報酬効果の発現が確認された。MDPVは精神依存形成能を有する危険性が示唆された。また、MDPVによる報酬効果は、ドパミン受容体拮抗薬SCH23390の前処置により有意に抑制された。2)細胞毒性の評価:マウス線条体の初代培養神経細胞を使用して、MDPV添加による細胞毒性の評価を行った。MDPV添加24時間後に、死細胞由来プロテアーゼ遊離が増大し細胞毒性の発現が確認された。また、MAP-2抗体による神経細胞の染色を行ったところ、MDPV添加群においてMAP-2陽性細胞の減少が確認された。
【考 察】本研究により、カチノン誘導体であるMDPVは精神依存形成能を有することが明らかになった。MDPVの精神依存形成において、ドパミン神経系が重要な役割を果たしていると考えられる。さらに、細胞毒性を惹起することから、MDPVの乱用により重篤な健康被害の発生が危惧される。