抄録
【目的】Mnの過剰暴露はパーキンソン病(PD)様症状などの中枢神経障害を引き起こすことが知られている.一方で,PD患者の黒質線条体におけるFeの蓄積や,カテコール化合物がFe存在下で酸化的DNA損傷を引き起こすことを合わせると,Mnによる神経障害にはFeとの複合作用が関与している可能性がある.本研究では,Mn,Fe,ドパミン(DA)の複合作用による神経細胞への影響と,そのメカニズムを明らかとすることを目的とした.
【方法】細胞障害性試験にはヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yを用い,生細胞特異的蛍光発色試薬にて評価した.酸化的DNA損傷については電気化学検出器付きHPLCにて仔牛胸腺DNA中の酸化グアニンを測定し,カテコールアミン酸化生成物であるアミノクロム生成はダイオードアレイ付きHPLCにより測定した.スーパーオキシドアニオンラジカル(O・2-)は亜硝酸法,過酸化水素(H2O2)はスコポレチン法により定量した.
【結果・考察】Fe-DA処理群における濃度依存的な細胞生存率の低下は,Mn添加により増強した.また,MnはFe-DA存在下において酸化的DNA損傷を増強した.Fe-DAによる主要な損傷因子であるH2O2はMn添加により増加した一方で,キサンチン-キサンチンオキシダーゼ系で発生したO・2-はMn添加により減少した.このことから,Mnはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)様作用を持つ可能性が考えられる.また,アミノクロムの生成に対してMnは促進作用を示した.以上のことから,MnはSOD様作用によりH2O2生成を促進し,酸化的損傷を加速する一方で,DAの自動酸化促進により酸化ストレスを上昇させ,その結果,神経細胞死を惹起する可能性が示唆される.