抄録
【背景・目的】胆汁酸レベルの上昇は肝障害を誘発するため、肝内胆汁酸レベルは厳密に制御されている。Fibroblast growth factor (FGF) 15/19は回腸に発現し、エンドクライン作用により肝内胆汁酸合成を負に調節することから、肝障害の防御に関与すると考えられている。FGF15/19は、胆汁酸をリガンドとする核内受容体farnesoid X receptor (FXR)により正に調節されるとされている。当研究室では抗菌薬をマウスに投与すると、小腸管腔内の総胆汁酸レベルが増加するにもかかわらず、回腸FGF15 mRNAレベルが減少することを見出した。このFGF15発現変動は、以前より報告されている胆汁酸によるFXRの活性化を介する機序のみでは説明出来ない。そこで本研究では、抗菌薬投与マウスを用いて回腸FGF15発現調節機序の解明を目的とした。
【方法】アンピシリン (APC、100 mg/kg、3 days)及び胆汁酸 (コール酸:CA、タウロコール酸:TCA、デオキシコール酸:DCA、タウロデオキシコール酸:TDCA、500 mg/kg)をマウスに経口投与し、mRNAはqRT-PCRで、胆汁酸量・組成はHPLCで解析した。
【結果・考察】CA、TCA、DCAあるいはTDCAを腸内細菌による胆汁酸変換反応(脱抱合・脱水酸化)を抑制したAPC処置マウスに投与すると、CA及びTDCA併用群で回腸FGF15 mRNAレベルは増加したが、TCA及びDCA併用群では増加しなかった。同様の実験をFXR欠損型マウスでも行ったところ、CA併用群においてのみ、FGF15発現誘導作用が認められた。FXRへの親和性が低いとされるCAが顕著な回腸FGF15発現誘導作用を示したことから、従来のFXRを介する機序以外の新たな経路の存在が示唆された。