抄録
【目的】合成抗菌剤であるニトロフラン類は、ニトロフランを基本骨格に、隣接するヒドラジド誘導体の違いにより多くの種類が知られているが、一部は発がん性が報告され、食品中への残留が危惧されるものは国内での使用が禁止されている。しかし、その発がん機序の詳細は不明である。そこで今回、雄ラット腎で発がん性の報告があるnitrofurantoin (NFT)とその代謝物のin vivo 変異原性を検討して、ニトロフラン類の化学構造依存的な発がん機序を検索した。【方法】雄のF344 gpt deltaラットにNFT及びニトロフラン骨格を有する代謝物5-nitro-2-furaldehyde (NFA)、ヒドラジド誘導体である代謝物1-aminohydantoin (AHD)を4及び13週間強制経口投与し、腎臓におけるin vivo変異原性を検索した。NFTの投与濃度は、混餌投与での発がん用量から換算した125 mg/kg bw に設定した。NFAおよびAHDについては、NFT投与量と同モルの用量を基準にした予備試験から得られた最大耐量のNFA:50 mg/kg bw 、AHD:80 mg/kg bw、を設定した。【結果】投与4及び13週の腎臓のgpt assay およびSpi- assayの結果、13週のNFT群でgpt mutant frequency (MF) の有意な増加が認められた。さらに変異スペクトラム解析では、GC-TA transversion変異頻度が有意に増加した。また13週のNFA群でも、gpt MFの有意な増加が認められた。【考察】NFTの13週間投与により、標的臓器の腎臓でgpt MFが有意に増加したことから、NFTの腎発がん機序には遺伝毒性メカニズムが含まれていることが強く示唆された。また同時に、NFAの変異原性も確認されたことから、NFTの変異原性には代謝物のNFAの関与が考えられた。今回、ニトロフラン骨格を有する上記二物質に陽性結果が得られたことから、この変異原性発現機序には酸化的DNA損傷の関与が示唆された。今後はさらに腎DNA中の8-OHdGレベルの定量解析を行い、NFTのin vivo変異原性と酸化的DNA損傷の関連性を検討する。