抄録
近年、体内埋め込み型の医療機器の開発に伴い、各組織内での生体に対する適合性が求められている。動物実験を用いた安全性評価では筋肉、骨、皮下を主な適用部位として評価をしてきたが、脳における埋植も視野に入れる必要性が高まっている。そこで、我々は脳内埋植による手技の検討ならびに周囲組織の反応について検討した。
筋肉内埋植試験にて用いられている対照材料(陰性対照:高密度ポリエチレン、陽性対照:0.75% zinc diethyldithiocarbamate含有ポリウレタン)を日本白色種(Kbs:JW)ウサギの脳半球内に1および4週間埋植し、生体への影響を検討した。ウサギを深麻酔後、頭頂部皮膚を切開して頭蓋骨を露出させ、ハンドドリルを用いてBregmaから側頭葉側に約5 mm、後頭葉側に約3 mmの位置に穴をあけ、各対照材料を脳半球内に埋植(深さ約5 mm)した。剖検では4%パラホルムアルデヒド含0.5%グルタール固定液にて灌流固定をした後、脳を採取し、病理学的検査を実施した。その結果、埋植後の観察期間中、死亡動物はなく、体重推移および一般状態にも異常は認められなかった。剖検時の肉眼的検査では、各対照材料の周囲組織に赤褐色の変色が認められた。1週間埋植の組織学的検査では、対照材料に接していた大脳皮質層の神経細胞は壊死し、グリア細胞の浸潤が認められた。また、陰性対照材料よりも陽性対照材料に対する神経組織変化が強く認められ、材料埋植周囲での出血、浮腫が顕著だった。4週間埋植の検査でも同様の変化が認められたが、程度は1週間埋植時よりも弱かった。
今回、埋植部位に選択した領域は一次運動野に該当したが、ウサギでの脳内埋植の手技的操作は実施可能であった。今後、他の領域での検討や、術後の疼痛管理、運動・感覚機能に対する影響も合わせて検討する必要があると考えらえた。