抄録
[背景] 核内受容体constitutive active/androstane receptor (CAR) は、肝臓に高発現する受容体型転写因子であり、生体異物などにより活性化されると、CYP3A4やCYP2B6などの薬物代謝酵素の遺伝子の転写を亢進する。また、CARの活性化物質のいくつかは、齧歯動物において肝肥大や肝発がんを引き起こすことが知られている。したがって、CARは生体異物に対する防御因子であるとともに肝障害発現のリスクファクターであると考えられる。また、CARの活性化物質の種類には、しばしば大きな種差が認められる。このため、齧歯動物で認められたCAR依存的な化学物質の生体影響が必ずしもヒトで認められるとは限らない。CARは肝由来培養細胞にほとんど発現していないため、CARの機能解析やCAR活性化物質の探索には、培養細胞に一過的にCARを過剰発現させる必要がある。しかし、培養細胞に発現させたCARは多くの場合、活性化物質の有無に関係なく細胞質に留まらず核内移行し、標的遺伝子の転写を亢進してしまう。そのため、培養細胞を用いたCAR活性化物質の探索は進んでいない。そこで本研究では、レポーターアッセイによるCAR活性化能評価系を構築し、その有用性を検討した。[方法] C末端にV5エピトープとHisタグを付加したヒトCAR (hCAR) を発現するプラスミドを用いてレポーターアッセイを行った。[結果・考察]タグの付加により、hCARの恒常的な転写活性が減弱し、CITCOに対する応答性が増大することが明らかとなった。このことから、V5およびHisタグを付加したhCARを用いることで化学物質のhCAR活性化作用を評価できることが示唆された。そこで、化審法既存化学物質176物質についてhCAR活性化作用をスクリーニングしたところ、4物質がhCARを強く活性化した。これら4物質による転写活性化は、hCARのinverse agonistであるclotrimazoleの同時処置により抑制された。以上の結果から、本研究で構築したhCAR活性化能評価系は、リガンドタイプのhCAR活性化物質の簡便な検出に有用であると考えられた。