抄録
<緒言>カニクイザルの第7腰椎神経結紮によるカニクイザル神経障害性疼痛モデル(NPモデル)では,鎮痛効果がプレガバリンではみられるがモルヒネでは全くみられなかったことから,本モデルは有用なNPモデルと考えられること,及び神経結紮後の時間経過で疼痛発現機序が変化する可能性が考えられることを第85回日本薬理学会年会で報告した.そこで,本モデルの特性をさらに確認するため,国際疼痛学会による神経障害性疼痛治療薬選択ガイドラインに提示されているメキシレチン(MT,糖尿病性神経障害治療剤)及びパロキセチン(PT,選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の鎮痛効果を検討した.
<方法>神経結紮後6ヶ月以上経過したカニクイザルNPモデル4例を用いた.MT及びPTは,注射用水に懸濁して経口投与した.Von Frey Filamentsを用い,足を引く時の圧重量を機械的圧刺激による疼痛発現閾値とし,薬物投与により,疼痛発現閾値が投与前値から5倍以上増加した場合に鎮痛効果有りと判定した.
<結果>MTを単回経口投与した結果,4例中1例で投与前と比べて投与後に疼痛発現閾値の明らかな上昇がみられ,同動物は神経結紮後6ヶ月のプレガバリンの経口投与において鎮痛効果を示した動物であった.一方,PTを単回経口投与した結果,疼痛発現閾値の上昇はみられず,投与後8時間に1例で嘔吐がみられた.
<考察>MTについて臨床の神経障害性疼痛では鎮痛効果は限定的であるとの報告があり,一部のNPモデル動物で明瞭な鎮痛効果がみられた今回の結果は,臨床報告と類似していた.この点からも本モデルの有用性が示唆された.一方,PTについて臨床の精神神経科領域での疼痛に良く奏効するとの報告があるが,本モデルでは鎮痛効果が全くみられなかった.