抄録
【目的】マーシャルビーグルは小柄な体格および従順な性格を有し,安全性試験を行う上では被験物質使用量の削減,ハンドリングの容易さといった利点がある.近年,中国に生産施設を設けたために中国産マーシャルビーグルが使用可能となったが,国内での使用実績はまだ少ない.今回,中国産マーシャルビーグルを安全性試験へ使用するのに先立ち,背景データ収集試験を4試験実施した.これらの試験から得られた中国産マーシャルビーグルの生理学的特徴を,別の生産施設(TOYOおよびHRA)のビーグルと比較したので詳細を報告する.
【方法】中国産マーシャルビーグルに4,13,39及び52週間,滅菌水を反復経口投与した.各試験では雌雄各4~10匹(6ヵ月齢)を使用し,飼料にはDS-A(250または300g/日)を用いた.ルーチン的に行われる検査項目(体重,摂餌量,血液学的検査,血液生化学的検査,尿検査,心電図・血圧検査,眼科学的検査,病理組織学的検査)に加えて,ホルター心電図検査,網膜電図検査(ERG),機能観察総合評価法による観察(FOB)を実施した.
【結果】体重,摂餌量,FOB,器官重量および病理組織検査において,生産施設間で顕著な差が認められた.6および12ヶ月齢時の平均体重は,TOYO:雄9.6および11.1kg 雌9.5および10.4kg,HRA:雄7.5および9.5kg 雌7.3および8.6kgである一方,中国産マーシャルビーグルでは雄6.4および8.4kg,雌6.2および7.5kgであり,低値であった.摂餌量は,中国産マーシャルビーグルではTOYOおよびHRAと比べ少ない傾向を示した.FOBでは,中国産マーシャルビーグルにおいて手押し車歩行,立ち直り反応などが観察されなかった.器官重量では,雄性生殖器の低値および副腎の高値が認められた.また病理組織検査では,精巣の未成熟が7ヶ月齢動物の半数近くに認められた.
【考察】多くの検査項目で施設間差が認められたことから,中国産マーシャルビーグルを安全性試験で用いる場合は,十分な背景データが必要であることが示された.