抄録
Poly ethy1ene glycol (PEG) は,エチレングリコールが重合した構造をもつ高分子化合物(ポリエーテル)である.近年では核酸医薬や組換蛋白医薬等において,高分子量のPEGを蛋白あるいは核酸性の薬物に結合させて分解されにくい構造とし,血中滞在時間を長くする目的で広く使用されている.しかし,高分子量のPEGに関する安全性情報は十分に入手できないのが現状である.
そこで我々は,高分子量の40及び80kDaのPEGの安全性に関する情報を収集するために,まず初めに1320 mg/kg/dayで,Crl:CD(SD)ラットに4日間反復尾静脈内投与し,一般状態観察,体重および摂餌量測定,血液学及び血液生化学検査,赤血球沈降速度測定ならびに病理検査を実施した.さらに,両PEGの10,60及び300 mg/kgの単回投与における血中PEG濃度及び赤血球沈降速度を測定した.反復投与試験において,PEG投与群全例にPEG80kDa投与群では貧血を伴った死亡が見られ,肝臓や腎臓などにおけるうっ血,マクロファージの空胞化と血管拡張は見られたが,全臓器において組織学的な障害は認められなかった.一方,特徴的な変化として,血中AST,ALTなど各種生化学検査値の著しい低値,ならびに赤血球沈降速度の亢進が確認された.単回投与試験においては,60,300 mg/kg投与群においてPEGの分子量及び血中濃度依存的な赤血球沈降速度亢進が認められた.10 mg/kg投与群においては赤血球沈降速度への影響は認められなかった.また,PEG80kDaの方がPEG40kDaと比較して,血中滞在時間が長く赤血球沈降速度の亢進も投与後長時間認められた.今回みられた変化は,PEGの物性による血球への影響に起因している可能性があり,PEGを用いた医薬品開発においては,分子量及び投与量に注意すべきであると考えられた.今後,血漿中PEG濃度とPEGによる影響の関連性について精査することによって,PEGを用いた医薬品開発における安全性面での指針提示に繋げたいと考えている.