抄録
【目的】食用油の合成工程で副生成物として混入されるグリシドールのラット母動物を介した発達期暴露を行い、母動物と児動物の神経毒性について検討した。【方法】雌SDラットに妊娠6日から分娩後21日まで0、100、300及び1000 ppmの濃度でグリシドールを飲水投与し、分娩後21日に母動物及び児動物を剖検した。母動物については、neurofilament-L抗体を用いた脳の免疫染色、坐骨神経及び三叉神経の病理組織学的検査を行った。児動物については、免疫染色により海馬歯状回顆粒細胞層下帯(SGZ)における新生ニューロン分化指標、PCNA及びTUNEL陽性細胞数、また歯状回門における介在ニューロン指標の陽性細胞数の検索を行った。【結果】母動物は1000 ppm群において分娩後14日より歩行異常が認められ、免疫染色によって小脳の顆粒細胞層及び延髄背索でスフェロイド形成がみられた。また三叉神経の神経節細胞は中心性色質融解を示し、坐骨神経には軽度の軸索変性がみられた。児動物は、1000 ppm群においてSGZでのdpysl3陽性細胞数が有意に減少し、歯状回門でのNeuN、calretinin及びreelin陽性細胞数が有意に増加した。【考察】グリシドールはその経口投与により母動物には感覚神経路の変性を主体とする遠位軸索変性症を引き起こすことが示唆された。児動物ではSGZにおいて未熟顆粒細胞の指標であるdpysl3の陽性細胞数が減少したことから、グリシドールの発達期暴露によって児動物で神経突起形成の起こる分化後期の細胞を標的としたニューロン新生が抑制されることが示唆された。また、歯状回門におけるNeuN、calretinin、reelin陽性細胞の変動は、介在ニューロンサブポピュレーションの変動を反映し、顆粒細胞系譜の新生、分化傷害に引き続くニューロン移動傷害を反映した変化であると示唆された。遠位軸索変性症、ニューロン新生障害のいずれも高用量性の反応であった。