抄録
【目的】近年、小児医薬品開発のための幼若動物を用いた毒性試験の必要性が議論されている。幼若動物は成獣に比べ、薬物代謝酵素やトランスポーターの発現が低いことなどが知られており、成獣と異なる曝露や毒性を示す可能性があるが、その影響を包括的に調べた報告はほとんどない。そこで、幼若ラットにおける生理的条件の違いが薬物動態に及ぼす影響を調べるため、日齢を追って肝臓および腎臓を採取し、薬物代謝酵素およびトランスポーターの発現や活性を調べた。また、分布への寄与が大きいタンパク結合に関する情報を得るため、血中タンパク質やアルブミンへの薬物の結合を阻害する遊離脂肪酸(NEFA)の濃度を測定した。【方法および結果】生後7、14、21、49日齢の雌雄Crl:CD(SD)ラットを使用し、血漿を用いて血液化学的検査を、肝臓および腎臓を用いてマイクロアレイ解析および薬物代謝酵素測定(活性測定およびWestern blot分析)をそれぞれ行った。この結果、血液化学的検査では、7日齢に比べ49日齢でALBおよびGLBがそれぞれ1.36→2.5 g/dL 、1.7→3.4 g/dL と増加し、NEFAは443.1→174.0 µq/Lと減少することが分かった。薬物代謝酵素活性では、第1相反応で14日齢から21日齢の間に有意に活性の上昇が認められた反応(EROD活性:45.82 → 262.1 pmol/min/mg protein)が多く、成獣で性差が知られている分子種の活性では、21日齢から49日齢の間に雌で0.494→0.082 nmol/min/mg protein(CYP3A2:PCD活性)、雄で27.4→437.16 pmol/min/mg protein(CYP2B:PROD活性)と、顕著な増減が認められた。【考察】血液化学的検査および代謝酵素活性では、7日齢から成獣である49日齢にかけて顕著な変化が見られた。以上の結果から、幼若動物を用いた毒性試験実施の際、ADME関連因子の日齢による変動を考慮する必要がある。現在、トランスポーターの発現解析を実施中であり、その結果も合わせて報告する。