抄録
「患者様に安全で確実に効く薬を届ける」、この目標の達成確率向上のためには、薬効探索と平行して安全性薬理評価を早期から実施することが非常に有益である。このような試みは、「ICH S7B:ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性に関する非臨床的評価」の発行以後、QT延長リスクを回避するために、hERGチャネル評価において一般的に進められてきた。しかし、他の安全性関連項目に関しては、候補化合物が薬効およびADMEを中心に選ばれた後に検討され、大動物に投与して初めて副作用として観察されことも多い。このような場合、プロジェクトの中止あるいは探索初期への後戻りなど、時間、コストいずれにおいても大きな損失となる。
探索初期の安全性研究では、薬効評価と足並みをそろえる必要があり、スピード・化合物量・コストが重要な因子となる。しかし、安全性の項目は、go/no goの決定に重要な要因となるため、精度・ヒトでの予見性いずれも十分に信頼に足るものでなくてはいけない。これらの条件を満たすために、安全性薬理評価においても2つのパラダイムチェンジを進めていくことが重要である。1つ目は「化合物を作ってから考える」から「化合物を作る前から考える」である。このためにはin silico technologyが不可欠であり、hERGをはじめとして、これまでに得られた膨大な安全性薬理に関するデータを利用して予測ソフトを作れば、かなりの確率で副作用の予測が可能であろう。2つ目は「ヒトの副作用を動物から推測する」から「ヒトの副作用はできるだけヒトの標本から予想する」である。ヒト幹細胞技術の進展により心筋を始め、神経や種々臓器の細胞が今後安全性研究に利用可能になるであろう。心筋細胞に関しては、既にQTリスクの評価に用いることができるレベルに達していると思われる。本シンポジウムではhES心筋における取り組みの紹介も含め、創薬初期での安全性薬理スクリーニングの将来について考え方を紹介したい。