日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S5-4
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子どもの毒性学
ヒト乳児における発達脳科学研究の現状と課題
*多賀 厳太郎
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抄録
胎児期から乳児期にかけて、ヒトの脳の構造と機能が発達する仕組みについての知見は極めて限られている。特に、一般の胎児・乳児を研究することには制約があり、非侵襲の脳機能イメージング手法が近年になって開発されて初めて、定型発達の実態が捉えられるようになってきた。例えば、磁気共鳴画像(MRI)を用いて、脳回・脳溝や主要な神経繊維束等、乳児の脳のマクロな構造形成の過程が非侵襲に調べられるようになった。また、近赤外分光法(NIRS)を用いた脳活動のイメージング手法が開拓され、乳児の視覚・聴覚・言語・認知等の機能に関わる脳の領域の発達過程の一部も明らかにされた。さらに、乳児の睡眠時の脳の自発活動をNIRSやfMRIで計測することで、脳の機能領域間のネットワークの形成過程もわかってきた。これらの研究は、脳の基本的な構造の特徴は、新生児の時期までにおおむね形成されているが、機能的な脳活動やネットワークの性質は生後数ヶ月間に行動の変化とともに劇的に変化することを示している。
 しかし、こうした脳のマクロなレベルでの発達が、神経伝達物質系の発達や脳内への物質の取り込み・輸送のような分子レベルの機構とどのように関連しているかについて、乳児で非侵襲的に調べる手法は限られている。薬物や環境ホルモンのような外因性の物質が、母親を通じて、あるいは、直接乳児に摂取された場合に、脳の発達に及ぼす毒性や行動発達への影響について多くの知見が蓄積されているが、それらの機構を理解するためには、定型発達において、内因性の脳内物質の変化がマクロなレベルの脳の構造や機能の発達とどのように関連しているかを明らかにすることが不可欠であると考えられる。
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© 2012 日本毒性学会
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