日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S6-3
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神経行動毒性試験の標準化と新たな指標開発の展開
認知・行動毒性学:マウスにおける認知機能と社会行動の評価
*掛山 正心遠山 千春
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抄録

実験動物における行動表現型は、ヒトへの外挿を志向する毒性学全般において重要な指標である。我々はその中でも、「認知・行動毒性」として、外的環境と自己の関係性を把握し、適切な判断を下し、自己を制御する高次脳機能に対する影響に注目して研究に取り組んでいる。本講演ではダイオキシンの低用量発達期曝露による影響表現型(以下では、TCDD曝露ラット/マウスと示す)とともに試験法を紹介し、指標の重要性を論じたい。第一に、状況判断や自己制御を含めた学習機能である。スキーマ依存性学習(Flavor Map)試験は、食べ物の匂いをもとにした前頭葉依存性の課題である。TCDD曝露ラットは、単純な記憶課題では影響のない低レベルの曝露であっても、この課題を習得できなかった。全自動行動試験装置IntelliCageにおける行動柔軟性課題は、自らが作り出した行動パターンを状況に応じて変更できるかどうかを調べるものだが、TCDD曝露マウスではこれが低下していた。第二に、天敵の匂いに対する反応である。TCDD曝露マウスは天敵の匂いに対して強いストレス反応を示した。そして第三に、仲間との関係性すなわち社会性行動試験である。化学物質曝露影響として今後注目すべき自閉症やうつ病などの心の問題は、すべて社会性の中で表出する問題である。しかし従来の行動毒性試験は一個体のみを対象とすることが多く、社会性を扱うことが難しかった。我々はIntelliCage装置を用いることで12~16匹のマウスを集団生活させ、社会性を評価する試験を開発した。TCDD曝露マウスは、いわば「ひっこみじあんになる」という社会的劣位性を示し、無駄な行動を繰りかえす固執的行動を示した。これらの行動指標は、ヒトの自閉症やADHD、うつ病患者の一部で見られるものと類似している。行動毒性試験の新たな指標として、認知・行動毒性をさらに発展させてゆくことが重要だと思われる。

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© 2012 日本毒性学会
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