抄録
我々はこれまでに,発がん用量のオクラトキシンA(OTA)をp53-/-gpt deltaマウスとその野生型(WT)に4週間投与した結果,WTと比較してp53-/-マウスでapoptosisおよびkaryomegalyの出現頻度が増加し,Spi-変異体頻度(MF)も増加することを報告した。そこで本研究では,これら諸変化の詳細な分子メカニズムについて検討した。【方法】実験1:雄10週齢のWTおよびp53-/-gpt deltaマウスに5 mg/kg のOTAを4週間経口投与し,腎臓のSpi- assayならびに得られたSpi-変異体のred/gam遺伝子の変異スペクトラム解析を行った。実験2: WTおよびp53-/-マウスに同用量 のOTAを3日あるいは4週間経口投与し,最終投与3時間後の腎臓のcomet assayを実施した。実験3:同用量のOTAを4週間投与したマウス腎臓を用いて,cDNA microarrayによる網羅的遺伝子発現解析を実施した。【結果】p53-/-gpt deltaマウスではOTA投与によりSpi-MFが有意に増加し,その変異スペクトラムは主に一塩基の欠失・挿入・置換であった。comet assayでは,OTA投与により何れのマウスにおいても同程度の陽性所見が認められた。網羅的遺伝子発現解析では,WTマウスで,DNA修復,p53下流の細胞周期停止(Cdkn1a)およびapoptosisに関わる遺伝子群の発現が増加した。一方p53-/-マウスでは,Cdkn1aの増加が極めて弱く,細胞周期促進およびDNA修復に関わる遺伝子群の増加が顕著であった。また,p53非依存的apoptosis促進遺伝子の発現も増加した。【考察】comet assayの結果から,OTA誘発DNA損傷の程度にp53は影響しないことが示唆された。網羅的遺伝子発現解析の結果から,p53-/-マウスにおいて,OTA投与による細胞周期の顕著な促進およびp53非依存的apoptosis経路の活性化が示唆され,その結果としてSpi-MF,karyomegalyおよびapoptosisが増加した可能性が考えられた。