抄録
Glycidolは,ヒトにおいておそらく発癌性があるとされ,3-monochloropropane-1,2-diol (3-MCPD)も,げっ歯類への発癌性が報告されている。一方,それらエステルは食品の製造過程で副産物として生成され,様々な食物に含まれていることが知られているが,代謝に関する報告は限られている。そこで我々は,これらの物質の代謝について,ラットを用いて検討した。被験物質はglycidol,3-MCPD,それらのエステル (glycidol oleate: GO, glycidol linoleate: GL, 3-MCPD dipalmitate: CDP, 3-MCPD monopalmitate: CMP, 3-MCPD dioleate: CDO) とし,9週齢のF344雄性ラット各3匹に,ほぼ等モル量胃内投与した。投与30分後に採血し,glycidol,3-MCPD及びこれらエステルの血清中濃度を測定した。その結果,血清中3-MCPDは,すべての投与群において検出され,その濃度はglycidol投与群と3-MCPD投与群は,ほぼ同等,ついでCMP投与群にみられ,CDPとCDO投与群は少量,GO,GL投与群ではわずかであった。一方,血清中glycidolは,glycidol投与群全例とGL投与群の一部で検出されたが,3-MCPDおよび3-MCPDエステル投与群では,検出限界以下であった。また,血清中エステル類はCDPとCDO投与群から,それぞれの未変化体が検出されたが,被験物質の脂肪酸が置換したエステル及びGO,GL,CMP投与群では検出されなかった。以上の結果より,glycidolとglycidolエステルは,ラットの体内において3-MCPDに変化することが明らかとなった。さらに,3-MCPDのエステルは,少量ながらそのままの形でも血中に吸収されることが示唆された。