抄録
【はじめに】肝発がん物質の中には,その代謝過程で誘導される第Ⅰ相酵素 (CYP)の誘導に伴う活性酸素種 (ROS)の産生による酸化的ストレスが発がんに関与するものがある。我々はこれまで,殺虫共力剤でCYP1A及びCYP2B を誘導するpiperonyl butoxide (PBO) の肝発がん促進機序にROS産生が関与する可能性を見出している。今回は抗酸化作用が知られているanthocyanin含有のビルベリー抽出物 (BBE)ないし酵素処理isoquercitrin (EMIQ) のPBO誘発肝発がん促進過程早期での修飾作用を検討した。【実験方法】ラット肝中期発がん性試験法に従い,6週齢雄性F344ラットにN-diethylnitrosamine (DEN)の200 mg/kg単回腹腔内投与を行い,その2週後からPBO 1.5%群,PBO 1.5%とBBE低用量 (飲水中anthocyanin含有率0.01%)ないし高用量 (飲水中anthocyanin含有率0.04%)の併用群,及びPBO 1.5%とEMIQ 0.2%の併用群,ならびにDEN単独群を設定し,6週間投与した。なお,PBOは混餌,BBE及びEMIQは飲水にて投与し,投与開始1週後に2/3部分肝切除を行った。【結果】PBO群に比し,BBE (0.01%, 0.04%) ないしEMIQ併用群では前がん指標であるGST-P陽性肝細胞巣の数が有意に減少し,BBE (0.04%)とEMIQ併用群では面積も有意に減少した。肝ミクロソーム分画でのROS産生とreal-time RT-PCRによるCyp1a1,Cyp2b1/2のmRNA発現は,併用群のいずれもPBO群との間で差はなかったが,チオバルビツール酸反応陽性物質はPBO群に比してEMIQ併用群でのみ有意に減少した。Ki-67陽性肝細胞数は,併用群のいずれもPBO群に比して有意に減少した。【まとめ】PBO投与による肝発がん促進作用に対して,BBE及びEMIQは抑制作用を示した。EMIQではその抑制に酸化的ストレスの抑制の関与が示唆されたが,BBEによる抑制には別の機序が示唆された。現在,GST-P陽性肝細胞巣の内外での細胞増殖やアポトーシスに関わる細胞内シグナルを検討している。