抄録
【背景及び目的】肝臓での代謝過程でCYPを誘導する化学物質の中には, CYP誘導による活性酸素種 (ROS) 産生に伴う酸化的ストレスが関与して肝発がんプロモーション作用を示すものがある。本研究では, CYP2B誘導剤であるPBとCYP1A/2B誘導剤であるPBOを用い, これらの併用投与によるラット肝発がんプロモーション作用修飾を検討した。【方法】ラット肝2段階発がんモデルを用い, 6週齢の雄性F344ラットにイニシエーターとしてdiethylnitrosamine 200 mg/kg を単回腹腔内投与し, 2週後からプロモーターとしてPB 60 ppmないし120 ppm を飲水投与, PBO 1250 ppmないし2500 ppm を混餌投与, もしくはPB 60 ppm及びPBO 1250 ppmの併用投与を行った。プロモーター投与開始から1週後に2/3部分肝切除を行い, 実験開始から8週間後に剖検した。【結果】PB, PBOないし併用投与群において, 相対肝重量の有意な増加が認められた。また, 肝細胞の肥大と変異肝細胞巣が認められた。肝前がん病変のマーカーであるglutathione S-transferase placental form (GST-P) 陽性肝細胞巣の個数は高用量群及び併用投与群でDEN単独群に比べて有意に増加したが, 面積は高用量群で有意な増加が認められたものの, 併用投与群では単剤高用量群よりも減少した。Cyp1a1及びCyp2b1/2 のmRNA発現及び肝マイクロソームにおけるROS産生はDEN単独群に比べて併用投与群で有意に増加したが, 単剤高用量群に比べて減少傾向を示した。一方, 酸化的ストレスの指標であるthiobarbituric acid-reactive substance (TBARS) 及び抗酸化遺伝子であるGstm3のmRNA発現は, 併用投与群で単剤高用量群と同程度に増加した。【考察】CYP2B誘導剤 (PB) とCYP1A/2B誘導剤 (PBO) の併用投与では肝発がんプロモーション作用は抑制されている可能性が示され, その機序にはCYP誘導抑制によるROS産生の低下が関与しているものと推察された。