日本毒性学会学術年会
第40回日本毒性学会学術年会
セッションID: S6-4
会議情報

シンポジウム 6 医薬品等の環境影響評価に関する現状と今後の課題
環境影響を心配せずに必要な医薬品を安心して使用するために
*東 泰好
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
全国の河川で多くの種類の医薬品の検出が報告されている。主に,排泄物や風呂排水を介して排出される使用後医薬品や不適切な形で廃棄される未使用医薬品,更には農・水・畜産業で使用される医薬品が主な起源であるとされている。河川での検出濃度は,医薬品の種類や季節・場所等により異なるが,多くは ng/L(ppt)のオーダーであり,一般的な薬効・毒性発現濃度と比較するとかなり低い。しかし,このように低濃度で環境中に存在する医薬品が人の健康や生態系に対してどのような影響を及ぼすかに関しては,詳しいことはわかっていない。欧米では,新薬の承認申請の際に環境影響評価の成績を提出することが義務づけられ,そのためのガイドラインも制定されており,現時点で未対応であるわが国の規制動向が注目されている。環境中に多くの医薬品が極めて微量ながら検出されることは事実であるが,これが生態系や人の健康に悪影響を及ぼしうるレベルに達しているかどうかの見極めが肝要である。いたずらに社会不安が煽られる事態を避けるためにも,まずは適切なリスク評価の実施が求められる。また,医薬品が有する医学的・社会的便益の大きさを考えると,リスク管理のあり方をめぐる議論も慎重になされるべきである。海外における最近の関連動向に目を向けると,social perception(社会として問題を正しく認識・理解すること),shared responsibility(責任の共有・分担),或いは collaborative problem solving(協働的な問題解決の努力)といった概念が今後のリスク管理を考える上でのキーワードであろうことが読取れる。今日の我々の生活が医薬品の恩恵なしには成り立たないことを考えると,環境影響を心配することなく,必要な医薬品を安心して使うことができるような科学的・社会的枠組の策定を目指し,関係者の英知と努力を結集し協働していくことが望まれている。
著者関連情報
© 2013 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top