抄録
医薬品の前臨床における安全性評価は,動物実験により行われているが,ヒトとの種差が認められる場合もあり,ヒト細胞を用いたin vitro評価系の確立は重要である。また,多くの化合物を少量で評価できるスループットの高い系は,創薬早期の医薬品候補化合物の評価には不可欠である。心筋細胞毒性評価のin vitro系として,従来からラットなど動物の細胞を用いたin vitro評価は行われてきたが,ヒトのprimary心筋細胞を入手することは難しく,ヒト細胞を用いたin vitro評価はあまり行われていなかった。また,薬剤誘発性QT延長リスクのin vitro評価として,ヒトのhERG channelの遺伝子を導入した細胞株でのパッチクランプ法による評価が行われてきたが,hERG以外のchannelや心筋としての機能を発現していないために,必ずしもin vivoでのQT延長リスクを反映できていなかった。
2007年に京大の山中教授らにより作製されたヒトiPS細胞は,心筋をはじめ多くの臓器の細胞に分化誘導できる多能性幹細胞として脚光を集め,創薬の前臨床in vitro評価への応用について多くの研究が行われている。多くの臓器の中でも心筋細胞は,その分化誘導法についての情報が比較的多いこともあり,他の臓器に先駆けてin vitro心毒性評価系への応用が行われようとしている。ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞 (hiPS-CMs) がヒトprimary心筋細胞と同等であるかについては確認が必要で,ヒトin vivoへの外挿性についてvalidationが必要である。また,hiPS-CMsの遺伝子発現や機能は作製法や培養期間などにより変化し,一定の機能をもったhiPS-CMsを得るための条件検討も必要である。本講演では,ラットprimary心筋細胞,hiPS-CMsを用いたin vitro心毒性評価系の現状について紹介する。