抄録
薬物の体内動態は代謝の受けやすさに大きく影響されるため,多くの製薬企業においては創薬の初期段階で代謝安定性試験を導入している.一般に代謝安定性試験には肝ミクロソーム系や単離肝細胞が用いられる.肝ミクロソーム系はCYPなどのPhaseⅠ活性およびグルクロン酸抱合などのPhase Ⅱ活性を同時に測定することは困難であるが,いずれの種についても実験材料を容易に入手でき,HTS化にも向いていることから汎用されている.肝細胞系はPhaseⅠ活性およびPhase Ⅱ活性,さらにさまざまなトランスポーターを保持していることからよりvivo に近い結果が期待できるが,ヒト肝細胞の場合コストが高く,またロット間の代謝活性のばらつきが大きいこと,HTS化に不向きなどの点が短所として挙げられる.最近ではこれらの点を補うために,HTS化に対応したスフェロイド系などの肝細胞3次元培養系も提案されている.いずれの系についても,試験材料のロット差,施設内・施設間差などを補正するために,常に標準となるコントロール基質を含めて試験することが肝要である.なお,最近では小腸における代謝も薬物の生物学的利用能に大きく影響することが知られてきており,ヒトの小腸初代培養細胞系を用いた試験系も報告されている.代謝安定性を一定のクライテリアで満たした薬物については,必要に応じて代謝酵素の同定,代謝酵素への阻害や誘導試験などが実施される.またこれらの試験の他にも,物性試験やin silico による代謝試験,探索的な毒性試験が行われている.特に脂溶性パラメータについては構造式から計算によって見積もることが可能であり,代謝安定性のみならず,代謝酵素の誘導や各種毒性のパラメータと相関することも多い.本講演では,毒性研究者の知っておくべき最低限の「in vitro による薬物代謝スクリーニング」について,国内外の製薬企業の状況も含めて紹介する.多くの毒性研究者の研究の一助となれば幸いである.