日本毒性学会学術年会
第40回日本毒性学会学術年会
セッションID: S9-2
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シンポジウム 9 日本中毒学会との合同シンポジウム 非臨床・臨床試験結果は,ヒト急性中毒をどこまで担保できるか -ヒトの急性中毒でみられる症状と非臨床・臨床試験結果との整合性-
臨床中毒学と毒性試験
*坂本 哲也
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抄録
救急医療の現場では薬物過剰摂取による急性中毒患者の占める割合は少なくない。急性薬物中毒の初期診療では,呼吸管理,循環管理,体温管理などの一般的な全身管理に加えて,胃洗浄,腸洗浄,活性炭,緩下剤による消化管除染,強制利尿や血液浄化法などが必要に応じて選択される。原因薬毒物が特定され,特異的拮抗薬や解毒薬が存在すればこれを使用するが,患者からの情報が得られない,あるいは間違っていることも多く,薬毒物の特定は必ずしも容易ではない。急性中毒の根本治療は薬毒物分析による血中濃度に基づいて行うのが理想であるが,測定には時間を要するので多くの医療機関では治療に間に合うよう結果を出すことが困難であり,限られた状況においてしか臨床に活かすことができない。薬毒物分析ができなければ,推定服用量と毒性試験に基づいたLD50などにより治療法を選択するが,毒性試験における実験動物の種差のみでなく,推定服用量の不確実性,病院到着前の嘔吐による影響,服用時刻が特定できないことなどから,現場では参考の範囲を出ない。急性中毒の臨床では,原因薬毒物の特定や血中濃度の測定結果を待たずに,薬毒物群ごとの特徴的な症状 “Toxidrome” を病歴や臨床症状から捉えて,推定に基づいて治療を開始することが多い。Toxidromeにはいくつかの分類法があるが,例えば興奮性,鎮静・催眠剤,麻薬,抗コリン性,コリン作動性の各toxidromeなどが用いられる。日本中毒学会では,急性中毒の診療が施設や医師によってまちまちであることが問題であると考え,学術委員会が中心となって2008年3月に「急性中毒標準診療ガイド」を刊行した。その中では,わが国における中毒診療の標準化を目的とし,エビデンスに基づくスタンダードだけではなく,日本中毒学会の総意としてのコンセンサスがあげられている。さらに,2010年7月からは標準診療を普及するために「急性中毒標準治療セミナー」を開催している。今後,非臨床・臨床試験結果との整合性も検討し,臨床現場でより有益となるよう標準診療ガイドを充実する必要がある。
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© 2013 日本毒性学会
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