抄録
非晶質ナノシリカやナノ酸化チタンをはじめとするナノマテリアル(1次粒子径100 nm以下の素材)は,従来素材とは異なる有用機能を発揮することから,既に化粧品などに応用されている。しかしながら,ナノマテリアルの安全性評価研究(Nano-Safety Science;NSS)は,世界的に見ても不十分であり,本観点から我々は,ナノマテリアル曝露により誘発される生体影響とナノマテリアルの物性,体内・細胞内動態との連関解析を推進することで,有用かつ安全なナノマテリアルの創製に資する基盤情報(Nano-Safety Design;NSD情報)の収集を図っている。これまでに我々は,食品添加物や化粧品基材として既に用いられている非晶質ナノシリカが,その物性によっては,血中G-CSF量の増加に伴う末梢血好中球画分の増加を誘導することなどを明らかとしてきた。そこで本研究では,好中球が生体防御の第一線を担う中心的因子であることを鑑み,非晶質ナノシリカを投与した際の生体影響について免疫学的な観点から解析した。BALB/cマウスに,粒子径70 nmのnSP70,および従来素材である粒子径300 nm,1000 nmのnSP300,mSP1000を尾静脈より単回投与し,投与24時間後にモデル抗原としてニワトリ卵白アルブミン(OVA)を腹腔内に投与した。最終投与2週間後に血液を回収し,OVA特異的抗体価をELISAにより評価した。その結果,nSP70を前投与した群において,OVA単独投与群,およびnSP300,mSP1000を前投与した群と比較し,OVA特異的IgG価が有意に増加することが示された。このことから,nSP70の前投与により,OVA特異的IgGの誘導が促進される可能性が示された。現在,これら生体応答の発現とnSP70曝露により誘発される末梢血好中球画分の増加との連関について精査している。