抄録
HSP90は、癌細胞の増殖や生存に関わる様々な蛋白質の安定性および活性化に重要な役割を果たしている。そのため、HSP90は抗癌薬の重要な分子標的と考えられ、多くの製薬企業がHSP90阻害薬の開発を進めてきた。しかし、Pfizer社のSNX-5422、Novartis社のAUY-922、Astex社のAT13387の臨床治験の結果から、これらのHSP90阻害薬が網膜毒性を有することが明らかとなったが、その網膜毒性発現機構は現在まで解明されていない。本研究では、小型脊椎動物モデルであるゼブラフィッシュを用いて、HSP90阻害薬CH5164840の網膜毒性発現機構解析を実施した。ゼブラフィッシュは、ヒトと極めて類似した網膜を有している。また、,が小さく、多数の個体を比較的小さなスペースで飼育することが可能であるだけでなく、毒性発現解析に使用する薬物の必要量が哺乳動物モデルに比べて非常に少ない。本研究では、受精後3日目から10日目までCH5164840を曝露したゼブラフィッシュにおいて、網膜視細胞層が変性することを明らかにした。また、ゼブラフィッシュ眼球を用いたトランスクリプトーム解析により、HSP90阻害薬の網膜毒性発現に関連する可能性のある分子を同定した。さらに、モルフォリノを用いたノックダウン実験により、HSP90阻害薬の網膜毒性発現におけるこれらの分子の関連性を検証した。その結果、HSP90阻害薬の網膜毒性発現機構の一端を解明することに成功したので報告する。