抄録
[目的]化学物質の眼刺激性試験法には様々な方法があるが、弱い刺激性の有無を正確に判定できる方法は見出されていない。これまでに、生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維より成るコラーゲンビトリゲル薄膜(CVM)をプラスチック円筒の片面に貼ったチャンバー(CVMチャンバー)内に、ヒト角膜上皮細胞株(HCE-T細胞)を多層化培養してヒト角膜上皮の組織シート型培養モデルを構築した。そして、このモデルに化学物質を曝露した時の経上皮電気抵抗(TEER)値の経時変化を詳細に解析することによって、無刺激から強刺激までの広範囲の眼刺激性を判定できる新しい試験法を開発し、これをVitrigel-EIT法と命名した。本研究では、被験物質曝露後のTEERの経時変化とモデルの組織傷害の程度との相関性について免疫組織学的に評価した。 [方法]CVMチャンバー内に構築したヒト角膜上皮組織シート型培養モデルに化学物質を曝露した後、TEERの経時変化を3分間測定した。また、曝露後のモデルの凍結切片を作製し、HE染色、および、MUC1、ZO-1に対する免疫染色を行った。 [結果と考察]被験物質曝露後にTEERが大きく減少しVitrigel-EIT法で強い眼刺激性物質と判定された物質を曝露したモデルでは、細胞の剥離、細胞死、およびタイトジャンクションの破壊が認められた。一方、TEERが曝露からタイムラグを伴って減少し、Vitrigel-EIT法で弱い刺激性物質と判定された物質では、細胞死、細胞層の変化は認められず、タイトジャンクションの破壊または、細胞層表面のMUC1の減少が認められた。そして、TEERが変化せず、非刺激性と判定された物質では、細胞層およびMUC1の変化も認められなかった。これらの結果から、被験物質曝露後のTEERの経時変化と組織傷害の程度との間に相関性が認められ、Vitrigel-EIT法によって弱い眼刺激性の有無を判定できることが示唆された。