抄録
化学物質の暴露に伴い,肝細胞肥大とそれによる肝肥大がしばしば認められる。肝細胞肥大の毒性学的意義は明確ではないが,肝がんや他の肝毒性との関連も指摘されており,その発生機序の理解は化学物質の安全性評価に重要である。現在までに肝細胞肥大の発生機序に関する報告はほとんど無いが,薬物代謝酵素誘導に伴い起こることが示唆されている。薬物代謝酵素誘導には異物応答性の転写因子であるAh受容体ならびに核内受容体PXR,CARおよびPPARαが中心的に働くことから,本研究では,化学物質の肝細胞肥大作用とこれら転写因子への作用の関連性を解析した。まず,ラットのPXR,CARおよびPPARαのレポーターアッセイならびにラットPPARαのワンハイブリッドアッセイを構築した。次に,ラットで小葉中心性肝細胞肥大を起こすことが報告されている化学物質(59種)と陰性対照物質(86種)の評価を行い,肝細胞肥大と核内受容体活性化との関連性を統計学的に解析した。その結果,各評価系について個別にカイ二乗検定およびROC解析を行った場合には有意な結果は得られなかったが,分類モデルである決定木を作成することで,肝細胞肥大誘発作用をもつ化学物質を核内受容体活性化作用に基づき高い精度で分類することができた。これらの結果から,酵素誘導作用と肝細胞肥大誘発作用の関連性が確認された。また,今回構築したインビトロアッセイ系や決定木が,新規化学物質の肝細胞肥大作用を評価・予測,または分類する手法として利用できる可能性が示された。一方,一部の肝細胞肥大陰性化学物質が複数の核内受容体を活性化したことから,肝細胞肥大の発生機序を理解するには代謝や体内動態,ならびに核内受容体が有する酵素誘導作用以外の機能も考慮する必要があると考えられた。現在,Ah受容体に対する作用の評価も進めておりその結果を用いて決定木の改良を行う予定である。