抄録
薬物自己投与試験(SA)は,薬物の精神依存性検索のために実施され,薬物の強化効果を検索する.これまでSAでは基礎データの豊富なことからアカゲザルが多用されてきたが,ICH M3(R2)ガイドラインでは依存性試験の動物種はラットが推奨されている.ラットSAの基礎データも集積されてきているが,摂取がみられる動物の割合のデータが少ないため,未知の新規化合物の強化効果の評価でどれだけの例数を用いるべきかが不明である.本研究では,ラットにおける中枢神経系抑制薬のSA法確立のため,ペントバルビタール(P),ケタミン(K)及びミダゾラム(M)をラットに静脈内自己投与させ,本試験法による強化効果検出精度をアカゲザルと比較した.アカゲザルはコカイン,ペントバルビタールその他の薬物の自己投与経験を,また,ラットはコカインの自己投与経験を有する個体であった.自己投与は,いずれの動物種においても1日の薬物摂取を2時間に制限し,最初にコカインを活発に摂取することを数日間確認した後,4~5用量段階のP(ラットでは0.06~4 mg/kg/inf.,アカゲザルでは0.125~1 mg/kg/inf.),K(ラットでは0.03~1 mg/kg/inf.,アカゲザルでは0.03~0.25 mg/kg/inf.)又はM(ラットでは0.01~0.3 mg/kg/inf.,アカゲザルでは0.002~0.032 mg/kg/inf.)を摂取させた.その結果,強化効果が検出された例数は,ラットではPが0/5例,Kは2/3例,Mは1/8例であり,また,アカゲザルではPが5/6例,Kが4/4例,Mが5/5例であった.以上の通り,中枢神経系抑制薬のSAでは,ラットはアカゲザルと比べて感受性が低い可能性が示唆された.その理由の一つとしてラットでは中枢神経系抑制薬のSA経験が無かったことが考えられ,したがって,ラットにおける中枢神経系抑制薬のSA法を確立するためには,代表的抑制薬を効率よく自己投与させる訓練法の検討が必要と考えられる.