日本毒性学会学術年会
第40回日本毒性学会学術年会
セッションID: GA
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学会賞
毒性理解と予知に向けた代謝機能の解析
*山添 康
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抄録

薬物代謝・動態の毒性理解への適用が叫ばれ30年近い年月が経過している。この間に代謝・動態について分子レベルで様々な角度から解析され,酵素(機能タンパク)分子種の多様性や代謝的活性化の経路についてはかなり詳細なデータが現在までに蓄積されている。ヒトP450代謝酵素の解析過程で,ラットやイヌとヒトの酵素間に基質特異性と酵素誘導に明確な種差があることが判明し,少なくともヒトに適用する医薬品の代謝はヒト由来の試験系を用いて評価することになった。
慶応薬理在籍時にCYP3ゲノム構造を世界で最初に解明したこともあり東北大に移動してからも,我々はCYP3A4 のオーファン受容体による転写活性化の解析を進めた。PXR の活性化は当初1カ所のシスエレメントで説明されていたが,新規PXRエレメントを主体とする3カ所の相互作用によって転写が促進されることを明らかにした。この結果を基にこれら核内受容体シスエレメントを含むレポーター遺伝子安定発現細胞株の開発を行い,再現性の良い誘導能の判定を可能にした。これら株は製薬企業等で既に開発候補品の選定に利用されている。ヒトCYP1A1 とCYP1A2 は,前者の発現が誘導時のみに限定されるのに対して,後者は常在性である。AhRによる誘導が個別に起きるのか,共通の機序を介して起きているのかは当時不明であった。我々は2遺伝子が直結した遺伝子を単離して,誘導に関与するエレメントを同定し,共通のシスエレメントを介して転写制御されていることを明らかにした。またAhR と共にCAR による直接制御も明確にした。これら代謝に関連する標的遺伝子の転写調節領域には,PXRやCARだけでなく,LXR,FXR,SREBPやHNF4等との相互作用部位があり,これらの転写相互作用を介して,標的遺伝子の発現レベルが規定されているものと考えられる。ところで,これら核内移行シグナル系は合成化学物質の代謝・動態に関わる標的遺伝子の解析から機序が明らかになったが,現在ではコレステロールと脂肪酸およびそれらの誘導体の代謝・動態の調節が本来の機能であるとされている。例えばアンピシリンの投与は腸内細菌による胆汁酸代謝を変化させ,消化管FXRによるFGF15/19の発現抑制を介して胆汁酸の肝合成と消化管における吸収を変化させることがわかってきた。今後酵素誘導現象は薬物の代謝変動と共に,脂質動態変動の指標として毒性理解に役立つことが期待される。
医薬品を含む異物の代謝にヒト肝に発現する約10種のCYP 分子種が関与している。これら分子種は実験動物種のCYP と一次構造が類似するが,基質特異性が異なっている(種差)。また基質の構造が類似していても代謝に顕著な違いを生じることがあり,個々の開発中の薬物ごとにヒト試料を用いて現在評価されている。最近,医薬品開発の効率化を目指してCYP 結晶由来の立体モデル系が開発され,ヒトCYP 分子種の代謝を予測する手法が開発されてきた。しかしこの手法の汎用性と精度は低く,実用域に到達していない。一方新薬開発の際に実施された豊富なヒトCYP 発現系の代謝データがあり,これらのヒトCYP 発現系の代謝データを用いて基質側からCYP 分子種の活性部位を再構築することができれば,精度の高い予測系が構築できると考えた。医薬品等の開発においては,代謝・動態部門内だけでなく合成・薬理部門等との認識共有が重要であり,代謝物の同定だけでなく,構造の改変情報を提供できるシステムを前提に開発を行った。これまでにヒトの主要分子種であるCYP2E1, CYP2B6, CYP4A11 およびCYP2D6について固有のテンプレートと条件配置,そして革新的な2分子同時配位を組み合わせることで基質・貧基質判別だけでなく,代謝部位を立体選択的に予測できる手法を開発した。これらの分子種についてはいずれも95%以上の予測精度を示している。現在CYP1A2およびCYP3A4のテンプレートを作成し,判定手法を構築している。

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© 2013 日本毒性学会
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