抄録
血管新生阻害療法は全てのがんに共通する血管新生を標的としているため, 多くの癌腫で抗癌剤との併用で治療効果が認められている. 長年,血管内皮細胞を標的とする血管新生阻害療法には薬剤抵抗性が生じないと信じられてきたが, 最近, これらに対しても薬剤抵抗性が生じることが報告されている.
そのメカニズムとしては近年まで「腫瘍細胞による形質変化」が機序として考えられていた.
これまでわれわれは腫瘍血管内皮細胞(Tumor endothelial cell: TEC)がgrowth factorや薬剤への感受性や遺伝子発現,増殖能,遊走能などが正常血管内皮(Normal endothelial cell: NEC)とは異なることを報告してきた. さらに,染色体異常が認められたことから,TECが遺伝子不安定性をもつ可能性が示唆された.最近,われわれはTECがNECに比較してMultidrug resistance gene-1 (MDR1) / p-glycoprotein (p-gp)の発現が高く,抗がん剤 paclitaxelに対して抵抗性があることを見出した.さらに,がん細胞由来VEGFによって,NECにおいてもp-gpの発現を伴う薬剤抵抗性が引き起こされることもわかった (Akiyama et a., Am J Pathol 2012) . in vivo 腫瘍モデルにおけるパクリタキセルによる治療実験の際にp-gpの阻害剤ベラパミルを併用するとパクリタキセルの治療効果が増強した.以上の結果より,TECの特性に着目することにより既存の薬剤を新しいがんの治療法に応用できることが示唆された.
一方,われわれは転移能が異なる腫瘍由来の血管内皮細胞間においてTECの薬剤感受性も異なること,腫瘍の悪性度の違いによって, TECには多様な性質があることを見出している(Ohga et al., Am J Pathol 2012). このようなTECの多様性の理解が血管新生阻害療法の個別化治療への応用には重要と思われる.