日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-11
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一般演題 口演
シスプラチン耐性ヒト卵巣がんに対する白金4価錯体の細胞障害作用に関する分子基盤の解析
戸邊 隆夫清水 香琳本山 美貴植田 康次*岡本 誉士典小嶋 仲夫
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抄録
【目的】白金4価[Pt(IV)]錯体は,すでに臨床応用されている抗がん剤シスプラチンなどの白金2価[Pt(II)]錯体のプロドラッグであり,生体内でPt(II)錯体へと還元されて抗がん作用を発揮する.Pt(IV)錯体の状態では生体分子との反応性が低く消化管内では反応しないため,経口投与できるという利点がある.また基礎研究レベルでは,シスプラチン耐性がんに対しても効果を示すことが知られている.本研究は,どのようにPt(IV)錯体がシスプラチン耐性がんを克服するのか,その分子基盤を明らかとすることを目的としてPt(IV)錯体によるヒト卵巣がん細胞障害性ならびに細胞内分布挙動,ゲノムDNAに対する影響について検討した.
【方法】ヒト卵巣がん細胞株(A2780)とシスプラチン耐性株(A2780cis)を用い,細胞生存率を生細胞蛍光染色法で評価.Ptの細胞内蓄積量・排出量・DNA結合量はICP-MS法で定量.
【結果および考察】A2780に細胞障害性を示す濃度域においてシスプラチンはA2780cisに対しては無効だったが,シスプラチンのPt(IV)錯体であるcis-Pt(IV)は同濃度域において両細胞株に高い細胞障害性を示した.このとき,細胞内Pt蓄積量および細胞外排出パターンにはcis-Pt(IV)とシスプラチン間で差は見られなかった.また,Pt細胞内輸送に関係する銅トランスポーター(CTR1)をCuCl2で競合阻害し細胞内Pt蓄積量を約50%低下させても,シスプラチンおよびcis-Pt(IV)による細胞障害性を抑制することはできなかった.加えて,Pt錯体の標的と考えられるDNAに対してはcis-Pt(IV)およびシスプラチンの結合量に差は見られなかった.以上の結果から,Pt錯体の一部はCTR1を介して細胞内に輸送されているが,細胞障害性にはCTR1を介さないPt輸送経路が重要な役割を担っている可能性がある.さらに,cis-Pt(IV)はシスプラチンと異なる様式でDNAに結合し効果的に影響を及ぼしているか,あるいはDNAとは異なる標的に対しても作用してシスプラチン耐性がんを克服しているものと考えられる.
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© 2014 日本毒性学会
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