抄録
【緒言】
ウランは腎臓に高濃度に蓄積し、腎障害を引き起こすことが知られている。ウランは重金属としての化学毒性とα線核種としての放射線毒性と合わせ持つ核種であり、一般に化学毒性が優勢であると考えられているが、詳細な化学毒性発現機序はよく理解されていない。腎臓中のウランは近位尿細管の下流領域(S3セグメント)に選択的に濃集していることが確認されているが、その部位選択性の機序も明らかになっていない。この腎臓へのウランの蓄積とそれに続き生じる腎障害のメカニズムを明らかにするためには、腎臓に蓄積したウランの化学形を知ることが重要である。本研究では、シンクロトロン放射光を用いた蛍光X線分析(SR-XRF)とX線吸収微細構造(XAFS)法による非破壊状態分析を試み、ラットの腎尿細管に蓄積したウランの化学状態を明らかにすることを目的とした。
【実験】
幼若(3週齢)および成熟(10週齢)のWistar系雄性ラットに対し、0.5 mg/kg、または2 mg/kgの酢酸ウラニルを背部皮下に投与した。投与後1日目、3日目、8日目、および15日目にこれらのラットを解剖し腎臓を摘出した。摘出した腎臓は10 μm厚の凍結薄切切片にし、放射光施設SPring-8にてSR-XRFによる分布解析とXAFS測定による化学状態解析を行なった。
【結果・考察】
バルク状態の腎臓のXAFS測定では、腎臓のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルは全て6価のウラニルイオンと類似しており、腎臓全体としては主に6価のウランとして蓄積していると考えられた。次に、マイクロビームを腎臓内のウラン濃集部位に照射しXAFS測定を行なった。その結果、濃集部位の多くはウラニルイオンと同様のスペクトルであったが、一部の濃集部位で4価のウランに類似したスペクトルが観察された。この結果より、腎臓内の濃集部位ではウランの還元が行われていることが示唆された。さらに、4価のウランと類似したスペクトルが成熟ラットのみから検出されたことより、ウランの還元機構には年齢依存性がある可能性も考えられた。