抄録
環境要因によるエピゲノム変化は、個体の後天的表現型にとって重要であるが、個体間のバラツキが大きく変動率も微弱であると予想される。しかし、CpGメチル化の微弱変動も捉える感度を有しつつ同時に現実的コストでゲノムワイド解析ができる有効な既存手法がない。そこで本研究では、環境毒性学に応用可能な新規ゲノムワイドDNAメチル化解析法(Methylated site display (MSD)-AFLP)を開発した。
この手法を評価するため、マウスの3組織(肝臓・腎臓・海馬)のDNAメチル化状態を測定し、既存の部位特異的な高感度測定法であるメチル化感受性制限酵素PCR(MSRE-PCR)法でも測定し、新解析法の評価をおこなった。その結果、3組織間のメチル化頻度差は両手法でほぼ一致していた。さらに、10%以下の変動率かつ5%以下のMF値の差を示す25個のCpGを検出でき、感度、精度共に高い網羅的解析法であることが判かった。
次に妊娠マウスにBPAを連続経口投与し、その雄産仔脳の海馬DNAのメチル化解析を実施した。Vehicle投与群(n=6)とBPA 200 µg/kg投与群(n=6)、計12検体をMSD-AFLPによりメチル化解析しし、検出された43,840のCpGのうちBPA曝露により統計学的に有意なメチル化変動を示すものは存在せず、BPAのDNAメチル化変動を検出することは出来なかった。
今回の結果から、まず本MSD-AFLP法は未知のCpGメチル化変動をスクリーニングできることが示され、微弱なDNAメチル化変化を捉える有用な手法となると考えられた。次に、この高精度な解析方法によってもBPAによる海馬のDNAメチル化変化は検出できなかったことから、BPAの胎児期曝露によるエピゲノム影響は極めて少ないことが示唆された。