抄録
有害性評価支援システム統合プラットフォーム(HESS)は、化学物質審査規制法(化審法)を中心にGLP基準で実施されたラットの反復投与毒性試験の結果及び代謝情報をデータベース化しており、カテゴリーアプローチによる未試験化学物質の毒性予測を支援する機能を備えている。Ethylene Glycol Methyl Ether (EGME)は精巣萎縮、精細管上皮の変性など精巣毒性を引き起こすことが知られている。Ethylene Glycol Ethyl Ether (EGEE)の毒性はEGMEより弱い。末端アルキル基の炭素数が3以上では精巣毒性は発現しない。EGME及びEGEEには生殖発生毒性も認められ、EUのREACHでは高懸念物質の候補に挙げられている。EGMEとEGEEは主に肝臓においてそれぞれメトキシ酢酸とエトキシ酢酸へ代謝され、精巣に酸化ストレス、内在性代謝の撹乱など種々の毒性影響を引き起こすと考えられている。そこで本研究では、メトキシ酢酸又はエトキシ酢酸に代謝されて精巣毒性を誘導する物質群をカテゴリーとして定義し、これに該当する化学物質を検索した。ラット肝代謝シミュレータを用いて、化審法既存化学物質のインベントリーからメトキシ酢酸又はエトキシ酢酸を生成する可能性がある化学物質をスクリーニングし、既報の代謝情報を考慮して20物質を得た。そのうち8物質は、代謝試験の結果からEGME、EGEE、メトキシ酢酸又はエトキシ酢酸いずれかが確認でき、毒性試験の結果からいずれも精巣毒性があることが確認できた。残りの物質も代謝活性化の可能性を考慮すると精巣毒性が懸念される。In vitro代謝試験等で代謝物の生成に関する情報を追加することによって、精巣毒性の予測の信頼性を向上させることが可能であると考えられる。