抄録
【目的】プロスタグランジン(PG)は、発生期において雄性生殖機能の発達や内分泌系に作用することが報告されており、妊娠期の解熱鎮痛薬の服用が胎児の男性生殖機能発達に影響を及ぼすことが懸念される。本研究では胎仔期マウスにアセトアミノフェン(AC)またはイブプロフェン(IB)を投与し、その雄性生殖機能への影響を検討した。【方法】ICR系マウスの妊娠9-15日に一日おきにACを60, 150 mg/kg/d、IBを12, 30 mg/kg/dをコーンオイルに懸濁させ胃内強制経口投与した。投与量は成人常用薬物量とその2.5倍量として設定した。雄性出生仔を8週齢時に解剖、心採血により血清を得た後、精巣および精巣上体、生殖腺を摘出し重量を測定した。精巣は一部をDSP(一日精子産生量)解析、残りをリアルタイムPCRによるmRNA発現解析(検討遺伝子:AR, ERα, ERβ, StAR, 17β-HSD, 3β-HSD, P450c17, P450scc, Cox-2)、精巣上体は尾部から精子浮遊液を作製、位相差顕微鏡下で精子の質(運動率、正常形態率等)の測定とAN/PIおよびJC-1蛍光染色によるフローサイトメトリー解析、血清はELISA法よりテストステロン(T)およびPGE2濃度の測定を行った。また、成長の各段階で体重およびAGD(肛門生殖器間距離)を測定した。【結果・考察】AC投与は常用量投与で発達初期段階(4、7日齢)での体重減少、過量投与で成長段階(15、22日齢)での体重増加とAGD伸長、精子ネクローシス増加、DSP減少、ERα発現減少をそれぞれ認めた。IB投与は常用量投与で精巣および生殖腺重量減少、精子ネクローシス増加、奇形精子増加、過量投与でAGD伸長(15日齢)、DSP、正常運動率、過直進運動率、正常形態率減少、奇形精子増加、ERα発現減少をそれぞれ認めた。体重およびAGDの変化は3週齢まで認められた。TおよびPGE2濃度、Cox-2発現変動に有意な差はなかった。以上より、AC、IBとも過量投与で精子の質に影響すること、さらに、IBはヒト常用量においても精子の質や精巣重量に影響することが認められた。