抄録
【目的】2-ブロモプロパン(2BP)はかつて半導体の洗浄などに使われてきたが、電子部品工場の労働者に無精子症、月経停止等の生殖障害を引き起こすことが報告された。筆者らはコンピューターを用いた精子運動能自動解析法(CASA)を利用している間に(1)塗沫や染色の操作を必要とせず無傷の状態の精子の形態を観察できる、(2)画像を容易に保存できる、(3)暗視野の画像のために未成熟精子を肉眼で検出しやすい、等の有用性を見出した。第38回学術大会(旧トキシコロジー学会)においてはジブロモクロロプロパンを被験物質とした有用性を検討し発表したが、今回は2BPを試験物質としてもこの有用性を確認したので報告する。
【方法】12週齢F344雄性ラットに溶媒とともに2BP (25 -100 mg/kg)を週2回4週間皮下投与した(全8回)。最終投与1週間後、麻酔して解剖し、生殖臓器重量等を測定し、精巣上体尾部の精子数および運動能をCASA(機種:HTM-IVOS)で測定した。またCASAにおける拡大画像から、首折精子、短形精子、未成熟精子、無頭精子、無尾精子を目視計測した。
【結果】精巣重量は全ての群で減少していた。また、最高濃度の2000 mg/kg投与群において有意な精子減少を確認した。さらに、短形精子、首折精子、無頭精子、無尾精子は最高濃度の2000 mg/kg投与群においてのみ有意に増加していた。未成熟精子はすべての投与群において有意に増加した。また、これらの刑態変化を積算して求めた正常精子率は全ての群で有意に低下していた。他方、運動能に変化は認められなかった。
【考察】精子数や運動能の低下が顕著でない状況でも、2BPによる精子の形態変化が検出可能であることが示された。特に未成熟精子を解析することは、形態変化を鋭敏に検出できることも示された。さらに塗沫標本ではアーチファクトとされがちな離断精子や首折精子を定量的に観察できたことも本法の有利な点といえる。