抄録
吸入暴露試験は、ナノ粒子を含めた吸入性化学物質の有害性評価においてゴールドスタンダード試験と考えられるが、コストや設備等の問題があり、多くの施設で行うことは困難である。一方、気管内注入試験は、比較的簡便な手法であるが、肺毒性の十分な知見がなく有害性評価は限定的である。本研究の最終目標は、気管内注入試験が吸入曝露試験のスクリーニングに有用であるかを検討することであり、そのファーストステップとして同じナノ粒子試料を用い気管内注入試験および吸入曝露試験を実施し、肺内の反応性の差異を検討した。ナノ材料として、高い肺毒性を有する酸化ニッケルナノ粒子と比較的低毒性の二酸化チタンナノ粒子を用いた。気管内注入試験に関しては、F344ラットに0.2mg、1mg/ratの用量で気管内注入を行った。一方、吸入暴露試験に関しては、1.65-1.84 mg/m3の暴露濃度で4週間(6時間/日、5日/週)の吸入暴露を行った。両試験とも曝露終了後、3日後および1ヶ月後に解剖し、BALFの細胞解析と酸化的ストレスの指標であるHO-1濃度の解析を行った。
酸化ニッケルナノ粒子に関しては、気管内注入試験も吸入暴露試験もBALFの総細胞数、好中球数、HO-1の濃度上昇を認めたが、気管内注入試験は持続傾向を認めた。二酸化チタンナノ粒子に関しては、気管内注入試験では、3日後、1週間後にBALFの好中球数とHO-1濃度の上昇を認めた。一方、吸入暴露試験では、肺の炎症反応はほとんど認めなかった。以上より、吸入暴露試験と気管内注入試験の反応性の差異は急性期を中心に認められおり、両者の相違を少なくするためには、肺炎症のエンドポイントは、急性期のみならず慢性期でも評価されることが必要と考えられた。
本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による。