抄録
【背景・目的】大腸がんは先進国でのがんによる死亡原因の上位の疾患であり、効果的な予防・治療法の開発は長寿社会を迎えた現在の医療において重要課題である。大腸がんの背景病変として炎症性腸疾患が知られており、炎症性腸疾患患者の約40%で大腸炎から大腸がんに進展するとの報告がある。今回、マウスのDSS誘発性大腸炎モデルを用いて、新規大腸炎抑制物質の探索を行ったのでその概要を報告する。【方法】BALB/cAnNCrlCrlj系雌性マウスに抗酸化剤である酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)を0.5および1.5%、α-リポ酸を0.2%、ならびに血小板凝集抑制剤であるシロスタゾール(CZ)を0.1および0.3%の各用量で混餌投与した。混餌投与開始5日目より5%DSSを8日間混水投与して大腸炎を誘発した。CZについては10 mg/kgの用量で1日1回強制経口投与する群(CZ 10 mg/kg群)を別途設け、5%DSS処置開始日から7日間反復経口投与を行った。動物数は各群12匹とし、比較のためにDSS単独処置群を設定した。試験期間中、体重および糞便スコア(軟便、潜血)を測定し、剖検時に大腸の長さを測定後、大腸の病理組織学的検査を実施した。【結果】DSS処置によりいずれの処置群においても体重減少が認められた。糞便スコアは継時的に増加した。DSS単独処置群と比較して、他の併用処置群において軟便スコアは有意に減少し、CZ 10 mg/kg群では潜血スコアが有意に減少した。α-リポ酸0.2%群、CZ 0.3%群およびCZ 10 mg/kg群においてDSS処置による大腸の長さの短縮が有意に抑制された。病理組織学的にDSS誘発性の大腸の粘膜傷害および炎症がいずれの併用処置群においても抑制された。【考察】今回使用した3剤は抗酸化作用、抗炎症作用等により大腸炎を抑制したと考えられ、大腸炎抑制物質としての有効性が示唆された。