抄録
医薬品などの化学物質が生体に吸収された場合,肝臓は高い濃度で曝露されるとともに代謝を行う。このため非常に毒性が発現し易い臓器である。これまでも種々の動物を用い毒性の評価が試みられてきたが,種差の違いによりヒトにおける適切な毒性評価がなされなかった場合も確認されている。一方,ヒト肝細胞等を用いた評価系の検討も実施され,懸濁あるいは2次元平面培養したin vitro評価も実施されてきたが,長期間代謝能を維持した状態で培養することが難しい点などから,ヒト特有の毒性の検出も含め評価が不十分であった。そのため医薬品の中には,上市後,多くの患者に使用されることにより初めて重篤な肝障害が明らかとなり,その結果市場から撤退せざるを得ない場合や,予期せぬ健康障害が根絶できていない。そこで,医薬品等の開発では,肝障害による健康被害と経済損失を回避すべく,長期間代謝能を維持したヒト肝細胞培養系を用いた種々の毒性評価への試みが精力的に検討されている。
これまで我々安全性評価研究会・スフェロイド分科会(クローズド・コンソーシアム)では,近年多く提案されている3次元in vitro評価法のひとつとしてヒト肝細胞スフェロイドを使用し,より早期に薬剤性肝障害の発生リスクを検出することをめざして,長期曝露による毒性評価を複数施設にて実施した。これまでに得られた有用性の確認と評価法の標準化を進めるべく,従来の2次元in vitro評価法と比較しつつ,協力企業のクローズド・コンソーシアムで検討を進めている。今回はこれら検討結果およびこれまでの活動成果を踏まえた進捗と今後の展望について,紹介する予定である。