抄録
近年,ナノマテリアルの曝露により生殖・発生毒性が発現することが報告されている.ナノマテリアルの生体影響を総合的に評価する上で,生殖・発生毒性の評価は重要であるが,その作用機序や曝露後の体内動態についてはまだ十分に解明されていないことから,より詳細な検討が必要である.本研究では,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を妊娠マウスに反復気管内投与し,催奇形性を評価した.1%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を用いて液中分散させたMWCNTを妊娠6,9,12,15日にそれぞれ0(対照群),0.5,1,および2 mg/kg bwの用量で反復気管内投与し,妊娠17日に帝王切開して胎児への影響を検索した.また,4回の反復気管内投与自体が妊娠マウスに負荷を与えていないことを確認するため,無処置群と麻酔群を設定した.各群9~11匹の母動物および各群127~156匹の胎児を用いて評価した.その結果,MWCNT投与群で胎児体重が低値傾向を示し,2 mg/kg群で対照群に比べ雄胎児の体重が有意な低値を示した.MWCNT投与による発育抑制と考えられる.また,0.5 mg/kg群で平均死亡胚・胎児数が有意な高値を示したが,1 mg/kg以上の群では対照群との間に有意差は認められなかった.外表観察の結果,対照群で裂手および巻尾が同一個体の1例に,1 mg/kg群で短尾が1例に認められたが,1 mg/kg以上の群では異常はみられなかったことから,自然発生による変化と考えられる.なお,黄体数,着床痕数,生存胎児胎盤重量については,いずれの投与群も対照群との有意差はみられなかった.今回,既存の研究報告および我々の過去の試験においてマウス胎児の奇形がみられたMWCNTの用量(3 mg/kg)よりも高用量(合計で最大8 mg/kg)で投与したにも関わらず胎児の奇形がみられなかったことから,今後は,単回気管内投与と反復気管内投与による影響発現の差について更なる検討を行う予定である.