抄録
TdP(Torsade de Pointes)は、心室細動や心突然死を引き起こす致死性の多型性心室頻拍であり、先行して認められるQT延長が催不整脈作用の指標として用いられている。現在、非臨床試験では、in vitroのhERG assayとイヌ及びサルなどを用いたin vivo心電図実験によりQT延長作用を検出することが世界標準となっている。
しかし、hERG assayはhERGチャネルのみに対する作用を評価する系であり、マルチチャネルに影響する化合物の評価は十分ではない。また、動物実験でのQT延長作用とヒトでのQT延長/催不整脈作用の間には必ずしも相関しないケースが存在し、その一要因として種差が指摘されている。
現在、この状況を打開しうる新たな研究プラットホームとして最も期待されているのが、「ヒトiPS/ES細胞由来心筋細胞(hiPS/ES-CMs)を用いた心毒性評価システム」である。
多電極アレイシステム(MEA)は、播種した細胞の細胞外電位を測定できるシステムであり、これを用いて測定したhiPS-CMsの細胞外電位は、心電図に類似した電位変化を示す。細胞外電位における始めの鋭い大きな波形と2つ目の緩やかな波形が基線に戻る点の2点間隔(FPD)は、心電図におけるQT間隔に相当し、化合物のQT延長作用を予測しうるという報告がある。
現在我々は、製薬協主催「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」を母体として、hiPS/ES-CMsを用いたQT延長及び催不整脈の評価系の確立を目指し、検証実験を行っている。その一環として、国内製薬会社5社において、MEAのうち、MCS(Multi Channel Systems)社製MEAを用いて、モデル化合物のFPDへの影響および不整脈波形誘発の有無等の検討を行っている。今回は、各社のデータ及び本評価系の施設間差について報告する。