抄録
【目的】殺菌剤や抗真菌剤として用いられていたヘキサクロロフェン(HCP)は、げっ歯類では中枢や末梢神経に脱髄を誘発することが知られている。本研究ではHCPのラットを用いた妊娠期・授乳期暴露実験を行い、離乳児での海馬歯状回(DG)におけるニューロン新生への影響を検討した。【方法】各群10~12匹の妊娠SDラットに、妊娠6日目からHCPを0、100、300 ppmの濃度で離乳時まで混餌投与し、雌子動物を生後21日目に解剖し、その脳を用いてDGの顆粒細胞層下帯(SGZ)と顆粒細胞層におけるニューロン新生の各段階にある細胞数の変動及び歯状回門でのGABA性介在ニューロンの分布を免疫組織化学的に検討した。SGZでは細胞増殖性とアポトーシスの変動も検討した。【結果】高用量群の母動物のみで、10匹中7匹に後趾麻痺が生じ、摂餌量は妊娠18日目から、飲水量は生後4日目から生後21日目まで低値を示し、体重は妊娠18日目から生後21日目まで低値を示し、リッターサイズも減少した。子動物では高用量群で生後20日から四趾麻痺が生じ、体重は出生日から生後21日目まで低値を示した。低用量群では神経症状は示さなかったが、生後14及び21日目で体重が低値を示した。病理組織学的に、母動物では中枢及び末梢神経において低用量でごく軽度~軽度、高用量群で中等度~重度の脱髄を認めた。子動物では高用量群のみで中枢及び末梢神経において軽度~中等度の脱髄を認めたが、脳重量は変動しなかった。免疫組織化学的に子動物のSGZでは高用量群でTbr2陽性細胞が減少し、アポトーシスが増加した。Sox2、doublecortin陽性細胞、PCNA陽性増殖細胞は変動しなかった。歯状回門ではparvalbumin、reelin、calbindin、calretinin、NeuN陽性細胞数は変動しなかった。【考察】HCPの妊娠期・授乳期暴露による離乳時での影響は歯状回門のGABA性介在ニューロンには認められず、その標的はSGZのtype2前駆細胞であることが示唆された。