抄録
【目的】ニコチンは神経興奮毒性として振戦やけいれん等の運動障害を誘発する。しかし、ニコチンがどの脳内部位に、どのような様式で作用するか、詳細なメカニズムはいまだ不明である。本研究では、ニコチンの比較的低用量で発現する振戦に焦点をあて、その発現メカニズムを行動薬理学的および免疫組織化学的手法により解析した。
【方法】初めに、ddY系雄性マウスにニコチンを腹腔内投与し、誘発される運動興奮症状をスコア付けにより評価した。次に、振戦発現における脳内興奮部位を探索する目的で、脳内Fos蛋白発現を免疫組織染色によって解析した。さらに、振戦発現原因部位を特定する目的で、SD系雄性ラットを用いて、Fos発現解析により変化の認められた脳幹部・下オリーブ核を電気的に両側破壊し、振戦発現に対する影響を評価した。
【結果および考察】ニコチンの低用量(1-2 mg/kg)では挙尾や体幹の振るえが認められ、高用量ではけいれん発作が惹起された。このニコチン(1 mg/kg)による振戦発現は、非選択的nACh受容体拮抗薬のmecamylamineおよびα7 nACh受容体拮抗薬のmethyllycaconitineにより有意に抑制されたが、α4 nACh受容体拮抗薬のdihydro-β-erythroidineでは影響を受けなかった。一方、これら振戦を発現した動物では、内側手綱核、視床、視床下部、下オリーブ核、孤束核において部位特異的なFos発現の上昇が確認され、このFos発現上昇は、mecamylamineおよびmethyllycaconitineによって有意に抑制された。さらに、下オリーブ核を電気破壊した動物では、ニコチンによる振戦発現は有意に抑制された。以上の結果より、ニコチン誘発振戦の発現には、α7 nACh受容体を介する下オリーブ核の過剰興奮が関与していることが明らかとなった。