抄録
【目的】ヒ素 (As) が3価の無機態 (iAsIII) として生体内に取り込まれると3価ヒ素メチル転移酵素 (As3MT) によりメチル化代謝を受け、主に尿中に排出される。Asと同じ類金属であるテルル (Te) も生体内でメチル化代謝されることが知られているが、その分子機構すなわちメチル化に関わる酵素は不明である。そこで、ヒトAs3MTの組換えタンパク質およびAs3MTをノックダウンした細胞を用いて、iAsIIIと同様に4価の無機Te (iTeIV) もAs3MTの基質となり得るか、またAs3MTがiTeIVの毒性軽減に寄与するかを評価した。
【方法】His-tagを付したAs3MT (rhAs3MT) を作製し、S-adenosyl-L-methionine、グルタチオン存在下でiAsIIIあるいはiTeIVを反応させた。その後、除タンパクし、H2O2により類金属化合物を酸化してHPLC-ICP-MSにより分析した。次に、ヒト肝癌由来HepG2細胞のAs3MTをノックダウンした細胞をiAsIIIあるいはiTeIVで処理して細胞生存率を測定した。As3MTのタンパク質量はWestern blotting法により、mRNA量はreal time RT-PCR法により測定した。
【結果・考察】rhAs3MTによりiAsIIIはメチル化されたが、iTeIVのメチル化代謝物は検出されなかった。また、As3MTの発現の有無によるiAsIIIおよびiTeIVによる細胞毒性に違いは認められなかった。以上のことから、本実験条件下ではiTeIVのメチル化にAs3MTが関与する可能性は低いと考えられた。また、As3MTによるiAsIIIのメチル化は、必ずしもiAsIIIの解毒作用を伴わないことが示唆された。