抄録
医薬品候補化合物が製品になるまで、長期間の開発期間と多額の開発費が必要とされるが、多くは様々な理由で開発が中止される。その主な原因の一つが肝毒性である。近年、創薬過程のより初期の探索段階において、細胞機能性試験いわゆるCell-based assay により、簡便かつ迅速に毒性を評価することが、安全性やコスト削減の観点から重要視されてきた。肝毒性評価には主にヒト初代培養肝細胞が広く用いられているが、ロット間差、入手機会や安定的な供給に問題がある。さらに、同一ドナーからの肝細胞を用いて、長期的な試験を実施することは困難である。
ヒトiPS細胞は無限に増殖可能かつ肝細胞等へと分化可能な多能性幹細胞である。すなわち、同一の遺伝的背景を有する肝細胞を半永久的に生産することが可能である。さらに、ヒトiPS細胞は様々な人種・性差・遺伝子バックグランドを有する体細胞から樹立することが可能であり、多様なドナー由来の肝細胞を作製することも可能となる。
ヒトiPS細胞由来肝細胞ReproHepatoTMは2012年に世界で初めて製品化に成功し
凍結細胞として提供可能な機能性細胞である。ReproHepatoTMを利用することで、必要な時に必要な量のヒトiPS細胞由来肝細胞を準備できるようになった。ReproHeaptoTMを96 wellプレートに解凍播種し、既に肝毒性が報告されているアセトアミノフェンなどの種々の化合物を暴露した。その結果、ATP、LDH、そしてGSHを指標としたアッセイ系により、濃度依存的な毒性を検出することができた。さらに、従来の初代培養肝細胞を用いた試験よりもロット間差が小さいことが明らかとなった。
今後、様々なドナー由来のヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた評価パネルを作成することにより、既存の評価系では困難であった毒性、例えば体質特異性の高い毒性評価等も予測することが期待できる。